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寄稿 中国におけるCDMの方向性について ポスト京都を展望し、対応策を検討する

三菱UFJ証券 (現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)
渡邉 肇

(月刊 エネルギーフォーラム 2009年10月号)

中国におけるCDMの重要性

京都議定書における「フレキシビリティーメカニズム」のひとつとして誕生したクリーン開発メカニズム (Clean Development Mechanism 以下“CDM”) は今や全世界で登録件数1780件、発行総トン数3億1000万CO2tに達し、先進国と発展途上国が共同で地球温暖化問題に立ち向かっていくための最も重要な手段のひとつに成長した。

中でも、中国の存在は極めて大きく、登録件数は620件で世界全体の35%、推定年平均発行総トン数は約1億8500万CO2tで世界全体の約59%を占めている。中国はCDMにとって世界で最も重要な国であると言えよう。
また、中国政府も気候変動問題には経済成長と併せ極めて真剣に取り組んでおり、CDMを活用し再生可能エネルギー案件など多数のプロジェクトが進められている。CDMは持続的な経済発展と地球温暖化対応の双方の観点から必要不可欠な仕組みとなっている。

京都ピリオッドは2012年で終了し、世界の関心は2013年以降の仕組みがどうなるかに集まっており、今年12月に開催されるコペンハーゲンでのCOP/MOPの議論が注目されている。
CDMに関しては現状の問題点が数多く指摘されており、その課題解決のための議論がどのように展開するかは予想しがたいものの、CDMの重要性は誰しもが認識しているところであり、その存続を疑うものは少ない。むしろその重要性を踏まえて、どのように改善し、発展させていくかを議論すべきであると思われる。

こうした認識を踏まえて、中国におけるCDMの課題、今後の方向性について以下で議論してみたい。

ホスト国別登録済プロジェクト:1780件

ホスト国別推定年平均CER発行量:312,037,693

  • (出典) UNFCCCウェブサイトより三菱UFJ証券作成 (2009年8月21日現在)

中国でのCDMの問題点

政府の強力なリーダーシップにより、中国ではCDMプロジェクトの開発が極めて積極的に進められ、世界一のCDM大国となっている。これまでの中国におけるこうした動きは世界の発展途上国 (ノンアネックスⅠカントリー) の模範となるものと思われる。一方、これまでの発展の結果、課題が浮かび上がってきたことも事実である。

まず、CDM事業となるプロジェクトタイプは大規模水力発電、風力発電、また、HFC削減などの限られたタイプに集中している。中国の登録済みCDM案件のうち、この3つのタイプが件数ベースで49%、推定年平均発行トン数ベースで58%を占めている。化石燃料、特に石炭がエネルギーの80%を占める中国では再生可能エネルギー開発が重要だが、大規模水力発電には環境破壊や地域住民の移転が伴うケースがあるなど問題があるため、より多様な再生可能エネルギー源を開発していく必要があり、CDM活用の余地も大いにあると考えられる。

第2はCDMプロジェクトの参加者が一部の大企業に偏っていることである。技術や資金のある企業でないとプロジェクト開発が出来ないため、なかなか中小企業や個人では実施が難しいという実情がある。

さらに中国のCDMをここまで発展させた最大の要因は政府のリーダーシップだが、一方で厳しく管理されているという側面もあり、例えば京都議定書上は要求されていない「売買価格」についてホスト国政府の承認項目の一部としフロアー価格を設けている。こうした厳しい管理はこれまでの中国のCDMの隆盛に大いに貢献してきたことも事実だが先進国の排出権の買い手からみると市場の自由度を狭め、また、案件が中国政府に承認されない可能性もあることから結果として案件の不確実性が高まるなど、市場の発展、拡大を阻害する要因になりかねないリスクを孕んでいることも認識しておくべきであろう。

また、プロジェクトが積極的に推進される中でCDMを追求しているため、「CDMがなければプロジェクトは行われない」という追加性に対する検証がややもするとあいまいになりがちであり、追加性に対してUNFCCCの見方が厳しくなっている中、その是非論はともかく、中国案件も例外なく厳格に取り扱われるている現実がある。

タイプ別中国登録済みプロジェクト:620件

タイプ別中国登録済みプロジェクト:620件

水力発電 304
風力発電 132
廃熱・廃ガス改修 64
メタンガス削除 47
N2O削除 26
その他再生可能エネルギー 16
天然ガス発電 15
HFC分解 11
原料代替 4
植林 1
合計 620
  • (出典) UNFCCCウェブサイトより三菱UFJ証券作成 (2009年8月21日現在)

中国登録済みプロジェクト推定年平均CER発行量:184,522484

中国登録済みプロジェクト推定年平均CER発行量:184,522484

HFC分解 65,650,749
水力発電 31,047,239
N2O削除 20,932,132
メタンガス削除 16,641,753
天然ガス発電 16,355,913
風力発電 15,415,766
廃熱・廃ガス回収 15,310,399
その他再生可能エネルギー 2,127,455
原料代替 1,015,283
植林 25,795
合計 184,522,484
  • (出典) UNFCCCウェブサイトより三菱UFJ証券作成 (2009年8月21日現在)

今後の方向性

以上のような問題点を踏まえ、中国におけるCDMについて今後の方向性を考えてみたい。

まず第1にプロジェクトタイプ、プロジェクト参加者の多様化を図る目的から中央政府のみならず、従来以上に省・自治区政府レベルがリーダーシップを発揮し、再生可能エネルギーでも、環境に配慮した小規模水力発電やバイオマス発電、太陽光発電を推進していくべきである。これらの事業は大規模水力や風力に比べ小型であり、地方の中小企業でも参加できる可能性がある。

第2に、現在ではまだ実用性に数多くの問題を抱えるプログラムCDMは、今後改善され利用しやすくなるのであれば、農家や都市の住民、交通機関など、従来とは全く異なるタイプのプロジェクト参加者を多く巻き込むことが出来ると考えられる。

第3に、プロジェクトのもたらすベネフィットが温室効果ガス削減、排出権売却による資金の取得以外の環境や生活水準の改善に結びつくいわゆる「コベネフィット」型を従来以上に積極的に推進していくべきである。大気汚染や水質改善などの環境面も含めた個人の生活水準の改善は中央政府以上に地方政府が個人の生活に密着したレベルで考えていくべきものであり、地方政府の役割は大事である。

最後に、従来からハイレベルでは頻繁に主張されてきた割には必ずしも現実の案件では多くが実現していたわけではないプロジェクト開発における技術移転について再度認識を新たにして促進していくべきである。この点に関しては、中国の大企業が技術を受け入れたいケースもあると思うが、例えば太陽光発電やヒートポンプ技術であれば、個人レベルで活用できるものも数多くあると思われる。

三菱UFJ証券の取り組みについて

われわれは、このような現状、方向感の中で、引続きCDMに関するノウハウの普及が大事であると考えている。
三菱UFJ証券は、2001年2月にクリーン・エネルギー・ファイナンス委員会 (以下 CEF委員会) を設置し、クリーン開発メカニズム (CDM) およびJI (共同実施) のコンサルティング業務を開始した。2007年10月からは、金融商品取引法の施行により、売買・媒介業務を始め、現在は9カ国の海外在住専任コンサルタントを含め、総勢40名を超える体制で積極的なコンサルティング活動を実施している。

CEF委員会は、設立当初より、単なる温室効果ガスの削減だけではなく、途上国における社会貢献・環境貢献、ひいては途上国の持続可能な発展に寄与するプロジェクトに注力している。
これまで、中国、東南アジア諸国を中心に、その他中南米・東欧などで100件を超えるプロジェクトに関与、うち30件が国連に登録されている (2009年9月11日現在)。また、新規方法論 (個別方法論) の分野でも7件の実績を有し、方法論の確立においては民間ベースで世界トップの地位にあり、コンサルタントとして、そのクオリティの高さはグローバルベースで認知されている。

当社は、こうしたプロジェクトへの関与を通じて得られた知見を背景に、ノウハウの普及に向けた取り組みを進めているが、昨年6月以降は、三菱東京UFJ銀行が中心となって推進しているCDM管理能力養成プロジェクトの一環として、中国国内研修、および、日本研修の講師を手伝うほか、JICAの研修などでも講師を務めるなど、今後もこうしたノウハウ普及に向けた取り組みを継続していきたい。

とりわけ、中国においては、裾野を広げ、多様な参加者、多様なプロジェクト、多様な技術、多様なベネフィットを追求するために、「一部の人のためのCDM」から「さまざまな人のためのCDM」に変貌するために、啓蒙活動、教育活動が必要であると感じている。利益重視の大企業だけでなく、多様なベネフィットを実現する「コベネフィット型」事業に関心が高い政府系機関が従来以上に活動を活発化し、それが個人の関心につながるような仕組み作りが求められる。
また、技術移転促進の観点からは、海外の技術提供者が中国のプロジェクトに接する機会を増やし、ニーズをよく理解してもらうことも大事である。個別の商売ベースに至る前の段階の情報交流の機会、仕組み作りは民間企業のコマーシャルベースだけでは容易には対応できないので、政府レベルの更なる関与が必要だと思われる。当社は、CDMコンサルティング活動を通して、地球温暖化問題に広く貢献していきたいと考えている。