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寄稿 植林CDMの現状と課題

三菱UFJ証券 (現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)
石井 晶子

(月刊 エネルギーフォーラム 2009年10月号)

植林の目的はさまざま

再生可能エネルギー、省エネなどの排出削減CDMとともに取り組まれているのが、吸収源CDM、すなわち植林CDMである。植林CDMは、プロジェクトによる樹木のCO2吸収量に基づいて発行されるクレジットが、今まで放置されていた荒廃地に植林することへのインセンティブとなり、植林活動を促進することが期待される。

しかし、植林といってもその目的はさまざまである。材木利用のための産業植林、水源育成、土壌保全のための環境植林、また、コミュニティー・フォレストリー、アグロフォレストリーを取り入れた社会林業があるだろう。
同じ本数の木を植え、同量のCO2を吸収しても、その環境への影響はさまざまである。植林することが必ずしも環境によいわけではない。植える土地、樹種、植え方によっては逆に生態系に悪影響を与える場合もある。

現在、52件の植林案件が国連に提出されうち7件が登録されている。その多くは環境植林、社会林業を目的として掲げている。
通常の産業植林が少ないのは、いずれ伐採してしまうからか、追加性*1が論証できないからか、あるいはその両方かもしれない。
一方、環境植林、社会林業にCDMを活用することは、通常収益が見込まれない事業において、クレジットがその投資回収、事業継続のための資金調達、参加住民への収入増加などへの貢献が期待される。現在では、このようなタイプの植林CDMの実施者は国際機関、NGO、ホスト国政府が中心である。

パラグアイ再植林事業

三菱UFJ証券は、9月6日に国連に登録された国際農林水産業研究センター (JIRCAS) が実施する「パラグアイ国パラグアリ県低所得コミュニティー耕地・草地再植林事業」にCDMコンサルタントとして協力している。本事業は、農村開発事業の一環として、167戸の参加農家が提供する土壌劣化の進んだ耕地および草地215haに2種のユーカリおよびグレビレアを植林し、用材の販売や薪材確保、ユーカリを対象とする養蜂などによる所得の向上、土壌浸食防止、アグロフォレストリーの定着、温室効果ガスの吸収を図る。CDMの仕組みを農村開発事業に導入することにより、クレジットを活用して持続可能な農村開発を目指す。

本案件のような環境・社会的便益の大きい事業にCDMが活用され、その普及に役立つことは理想的ともいえる。しかしながら、このシナリオの実現は決して容易ではなく、JIRCASのような調査体勢の整った機関の尽力なしには成り立たないと考えている。

難しい要素の多い環境植林

最貧国に便益をもたらすことが期待される植林CDM
最貧国に便益をもたらすことが期待される植林CDM

環境植林、社会林業は大規模な単一植林とは異なり、複数樹種の管理、住民参加、植林サイトの地権問題、参加者間の収益分配など、難しい要素が多い。このような複雑な事業を、現在の厳しいCDMのルールに則って実施することは、非常に難しい。
植林CDMの手続きでは、吸収量算出に必要な樹木のデータはもちろん、土地の所有権、小規模プロジェクトにおいては低所得者層が事業に参加していることの証明が必要とされる。
そのため、時間だけでなくデータ収集、検証のための費用もかかる。さらに、最長60年間というクレジット期間中、方法論に基づいたモニタリングを実施しなければ、クレジットは獲得できない。その上、獲得したクレジットには期限が設けられている。
これら、国連のルールは温室効果ガスを確実に削減し、クレジット発行の公平さを保つためには必要だろう。しかしながら、環境・社会便益の大きい植林事業の実施を促進するという期待とCDMのルールの間に存在するギャップは大きい。
一方、社会貢献性の高い植林事業実施の動機はクレジットだけではない。企業の社会的責任活動として植林に興味を示す企業は多い。従って、複雑で時間と費用のかかるCDMのプロセスを経なくとも、植林というイメージだけで十分という企業も多いだろう。しかしながら、CDMは責任ある事業の継続、持続可能で環境負荷のない植林事業推進、そして温室効果ガス削減事業の実施に対し、現地側でのインセンティブを与えよう。

また、植林CDMは、既に温室効果ガスを排出している産業や国だけでなく、現在排出は少ないが、気候変動に脆弱なアフリカの国々や最貧国にも温室効果ガス削減事業実施の便益をもたらす仕組みとして期待される。

今年12月コペンハーゲンにおける気候変動枠組み条約 (COP15) で議論されるポスト京都の枠組みにおいて、植林CDMを気候変動対策のひとつとして継続するためには、ルールの実用可能なレベルまでの簡素化、環境・社会便益の高い事業へのインセンティブと差別化を実現することが鍵となると考える。また、現在その議論が注目されているREDD*2も含め、今後も吸収源プロジェクト促進のための市場メカニズム活用という大義実現に向け、途上国において、現実的で有効なスキームが必要不可欠であり、国際交渉の場において構築されることが期待される。

  1. *1 CDMがなければその事業は実施されないという必須要件
  2. *2 森林減少・劣化に由来する排出削減