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寄稿 交通CDMの課題解決に向けて

三菱UFJ証券 (現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)
中村 仁志

(月刊 エネルギーフォーラム 2009年12月号)

数少ない交通分野でのCDM

4分の1vs1119分の1。前者は交通分野が排出するCO2排出量の割合、後者はUNFCCCに登録されたCDMプロジェクトにより削減される温室効果ガス量のうち交通分野のプロジェクトによる削減量が占める割合である。
京都メカニズムは交通分野には機能しないのか。交通分野は資金メカニズムを必要としないのか。地球規模の温暖化問題の解決には不可避である交通分野と、温暖化ガス排出量削減を推進する世界最大の資金メカニズムであるCDMに焦点を当てる。

2009年10月現在、CDM理事会における交通分野の登録済みのプロジェクトはわずか2件のみである。ひとつは通常規模方法論「バス短時間乗り換えプロジェクトのための方法論」 (AM0031) を適用したコロンビア・ボゴタのBRT (Bus Rapid Transit) 案件、他方は小規模方法論「低GHG排出車両による排出削減」(AMS III.C.)を適用したインド・デリーの地下鉄に電力回生ブレーキを導入した省エネルギー案件で、この2007年12月の登録を最後に交通分野のCDMプロジェクトは開発されていない。
一方で、交通分野における国連承認済みCDM方法論は、通常規模で2件、小規模で5件あり、決して、同分野のプロジェクトに対し門戸が閉ざされているわけではない。さらに、これまでの新規方法論開発の状況を見ると、23件の方法論が国連に承認申請されており、多くの事業者がCDMを活用した温室効果ガス削減プロジェクトの推進に期待していることが分かる。

現実とCDM方法論の乖離

CDMとして案件を国連登録するには、適用可能な承認方法論の存在が不可欠であるが、交通関連の承認済み方法論が活用されない理由として、この方法論の適用性が現実のプロジェクトに即していないことが考えられる。また、多くの方法論が承認に至っていない状況は、CDMのルールと交通プロジェクトとの適用に何らかの障害があるものと推察される。国連による方法論承認審査の結果、非承認 (C判定) された案件の拒否事由の分析を基に、交通分野プロジェクトが直面する課題を列挙する。

課題1:
温室効果ガス削減効果が容易に想定できる案件でも、実質的削減量想定方法が明確ではない、もしくは不十分である。
課題2:
プロジェクトバウンダリーや複数技術の組み合わせの選択肢が広範囲に及んでいる、もしくは当該プロジェクトにのみ限定的で汎用性に乏しい。その結果、ベースライン (プロジェクトが実施されなかった場合のプロジェクト実施期間中のシナリオ) の設定がより複雑化され不確定要素が増える。
課題3:
統計資料やデータの不足から適切なベースラインを設定することが困難である。

これらの課題分析の結果として、CDM案件としてプロジェクトの蓋然性を評価する場合の留意点を表にまとめる。

CDM案件の蓋然性確認事項

項目 留意点
案件タイプ バイオ燃料
  • モーダルシフトなど、他の交通関連の方法論と併用されてはいないか。
  • カーボン・クレジットの所有権の問題は解決しているか。
  • 原材料供給先は、 (荒廃地などを使用した) 専用プランテーションか。
  • 製造されたバイオ燃料は、国内消費用のみであるか。
モーダルシフト
  • 新開拓地での都市計画なのか、それとも既存の交通手段からのモーダルシフトか。
  • 既存の場合、走行ルートの拡張は回避することが可能か。
  • 転換される交通手段は、限定されているか。
交通システム改善
  • 交通システム改善と実質的な削減効果を動機付けることができるか。
  • 汎用化しすぎていないか。
  • 提案プロジェクト導入後、サービス内容に変化は生じないか。
低排出車への転換
  • 提案プロジェクト導入後、サービス内容に変化は生じないか。

特有の課題がCDMの障害

三菱UFJ証券もプロジェクトの推進にあたり、こうした障害に直面した経験を持つ。2007年より、フィリピンにおけるジープニーと呼ばれる乗合タクシーのエンジン交換に伴うプログラムCDMの開発を手掛けているが、低排出車量への転換プロジェクトの課題である「プロジェクト導入前後のサービスレベル維持」の問題に直面し、プロジェクト対象車両を運行ルートが特定できる路線に特化するなど、CDM化に伴う枠組構成の検討を余儀なくされた。
このように交通分野特有の課題が、プロジェクトのCDM化の障害となっていることが分かる。しかし、同分野におけるCDMプロジェクトの推進は、温室効果ガスの削減に加え、ホスト国における大気汚染や交通渋滞の解消、輸送円滑化等による経済発展など、多様なベネフィットをもたらすものとして期待される。当社では、現行のCDMの課題を再認識し、より多くのCDM案件の開発に寄与すると共に、交通分野のプロジェクトに即した新たな資金メカニズムの在り方について積極的に議論していきたい。