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寄稿 CDMは生き残るのか?

三菱UFJ証券 (現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)
吉高 まり

(月刊 エネルギーフォーラム 2010年1月号)

CDM改革

次期約束期間の削減目標の同意にいつこぎつけるのか? COPでともに議論されるのがCDM (クリーン開発メカニズム) の改革であり、既にCDM理事会は動き出している。
最初のCDM事業が登録された2004年10月からこれまでに発行されたCER*1は約3億5千万t、登録された事業は約1900件。ポスト京都の仕組みいかんであるものの、米国、EUが公表している中期排出量削減政策を分析すれば、海外の炭素クレジット調達は必須であり、世界のCERの需要をとても満たすものではない。これまで試行錯誤を繰り返したCDMはさまざまな課題を浮き彫りにした。また、海外からの炭素クレジットの購買を「国富の流出」であると批判する声もある。当初、CDMは、先進国と途上国の間にWin-Winの関係を構築すると期待された。しかし、CDM事業では技術移転も事業資金への投資も多くは行われず、炭素クレジットの売買が中心と見られる。登録事業の大半を占めるのが中国の案件ということもあり、「南北の差異ある責任を満たす」ための手法であるはずのCDMに各国の政治的思惑が影を落とす。

カンボジアでのプロジェクト

当社は、CDM/JIの炭素クレジットが世界の持続可能な発展に寄与するという信念に基づき2001年より100以上を超える事業に携わってきた。カンボジア初のもみ殻発電事業もそのひとつである。同事業は、同国最大の精米工場で廃棄物として放置され腐敗しメタンガスを発生していたもみ殻を利用し、高価なディーゼル油の発電機を代替するものである。初期投資は約7億円、事業開始に十分な資金がなかったが、当社が事業をCDM登録し、2006年度NEDO*2より炭素クレジットの前払いとして資金を得ることができ、事業実施が可能となった。まさに、本来CDMが目指す形で資金調達が行われた。しかし、事業はそれでめでたしではない。
カンボジア初の2.5 MWのバイオマス発電所を同国の一企業が建設するというのは、資金調達後もさまざまな困難に遭遇する。国内に十分な機器製作所がないため、タービンは日本、ボイラーはタイでと海外で組み立てた機器を輸入するのだが、同国初の機器の輸入手続きの事業者および当局双方の不慣れ、輸送手段の確保や国境紛争など想像もつかない問題が次々発生し事業開始は大幅に遅延した。
先進国でさえ通常の発電事業よりリスクのある事業を、精米事業以外の経験のない事業者は、カンボジア復興の礎とすべく事業開始にこぎつけたわけだが、事業実施にはこうした多くの苦労がある。さらに排出量削減のモニタリングをしなければ、CERは発行できない。このモニタリングも容易ではない。それでも、事業者にとって炭素クレジットは資金調達のインセンティブとして必要なのである。

炭素クレジットは環境化地を定量的に評価可能

炭素クレジットは金融機関にとって資金供給する際の担保もしくは利益として環境価値を定量的に評価できる仕組みである。
国際資金援助で解決すればという従来型の議論に戻る向きもあるが、無償の補助金で行われた事業では持続可能な普及は難しい。炭素クレジットは途上国の持続可能な発展を促進し、環境の金銭価値を顕在化させ、民間資金を導入するには有用な仕組みであり、地球が持続可能であるための価値のひとつである。
排出削減を強制するためのキャップアンドトレードとは異にしている。この価値を存続させるためには、透明性のある適正かつユーザーフレンドリーな市場づくりを目的としたメカニズムの構築がなされなければならない。地球温暖化阻止には地球全体で排出削減がなされることが重要である。
しかし、現在のCDMの仕組みはフリーライダー*3の阻止を重視するあまり、本来進めなくてはならない事業の促進を妨げている。国連のガイダンスなどの改定頻度の削減、それらの執行猶予期間の延長、審査の簡素化および期間の短期化、指定運営機関への適切な指導が必要である。
また、追加性証明における現実性の高い立証基準の確立が望まれる。例えば、BAUの懸念のある事業とリスクの高い事業の分別、再生可能エネルギー等推奨事業への優先的扱い、各国のベースライン、ベンチマークの整備および簡素なデフォルト値の設定などが挙げられよう。

新たなビジネスモデル構築すべき

持続可能なグローバル経済戦略の視点から、各国が生き残るためには環境価値の市場への内在化は必要不可欠である。
ほかの経済大国が認めているように、エネルギー保障と国力を保ちながらわが国の中期削減目標を達成するために、海外クレジットはなくてはならない。
そして、炭素クレジット獲得用資金を有効利用し、日本の省エネ技術を海外展開するためには先進技術を普及対象市場のニーズに合わせ、初期投資を抑え後で投資回収するような新しいビジネスモデルを構築すべきである。
今後、米国、EU、中国などの大国がそれぞれの経済論理で国際交渉とは別に独自の戦略を打ち出してくるかもしれない。目に見えるものだけが価値ではない。経済と環境のバランスの中で人類がこの価値を必要と思うならば、その価値を生かす独自の戦略を持つものが地球で存続していくのかもしれない。

  1. *1 CER: (Certified Emission Reduction)
  2. *2 NEDO: (独) 新エネルギー・産業技術総合開発機構
  3. *3 フリーライダー (ただ乗り) :通常業務内 (Business as usual: BAU) のプロジェクトに対してCERを発行すること。