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寄稿 CDMの功績 生態系保護と自然エネルギー

三菱UFJモルガン・スタンレー証券
吉高 まり

(月刊 エネルギーフォーラム 2010年12月号)

次期約束期間の削減目標は京都の延長か、新しい枠組みか、メキシコ、カンクンで開催されるCOP16への期待は高いとは言えない。本年1月 (661号) の「アナリストの視点」 (月刊 エネルギーフォーラム誌) においてCDMの意義と炭素クレジット獲得用資金を有効利用し、日本の省エネ技術などを海外展開するためには技術を普及対象市場のニーズに合わせ、初期投資を抑え、投資回収するような新しいビジネスモデル構築の必要性について述べた。折しも、経済産業省が排出枠の新たな獲得方法として「2国間クレジット制度」を打ち出した。制度設計こそまだこれからのようであるが、まさに官民一体となった新しい低炭素ビジネスモデルの構築が始まる。環境十全性が国際的に認知される仕組みになれば、これまでCDMの仕組みでは困難であったが意義のある事業へ資金が還流する可能性を秘めている。それでは、米国の法案が提案しているセクトラルクレジットや2国間もしくは多国間の仕組みができれば、CDMは不必要となるのであろうか?

ガラパゴス諸島でのプロジェクト

ガラパゴス諸島でのバイオ燃料プロジェクト
ガラパゴス諸島でのバイオ燃料プロジェクト

当社が現在、国連登録を目指しているのは、エクアドル政府と協力して島の電力をディーゼル燃料から自然再生エネルギーに転換する事業である。膨大な数の固有種が存在するエクアドル・ガラパゴス諸島において、電力の大半がディーゼル燃料を使用するため、供給する小型タンカーが座礁して海を汚染するケースが多い。ガラパゴス諸島のプロジェクトは生物多様性の重要性が世界的に言われる中で、環境への寄与や経済効果なども勘案した上で、石油依存からの脱却を目指すエクアドル政府の「ガラパゴス諸島における化石燃料ゼロプログラム」の下、自然再生エネルギー施設を島に設立する。
プロジェクトでは主要13島のひとつバルトラ島で6.75 MWの風力発電を計画している。また5 MWのナンヨウアブラギリ (ジャトロファ) のバイオ燃料によるコジェネレーション発電など熱が得られるエネルギー源などを検討。ここでつくられた電力を同島や隣接するサンタクルス島の小規模電力網に供給し、既存の化石燃料から自然再生エネルギーに代替する計画である。風力発電は来年7月の稼動を目指し、現在、建設に着手している。また、発生した熱は、新設予定の淡水化プラントに供給する。このプロジェクトにより、ガラパゴス諸島では風力発電だけでも年間1万1000tの温室効果ガス削減を見込む。

エクアドル政府は、石油産出国であるにもかかわらず石油派生品を輸入しなければならず、原油価格の落ち込みなどにより財政が悪化している。また、2009年の水不足によるエネルギー危機による政府予算がひっ迫している。このような財政状況から、ガラパゴス諸島の再生可能エネルギーへの予算確保が不透明な状況にある。
従って、本案件をCDMにすることにより不足資金をCERの活用を通じて、民間から出資者を募ることを模索している。当事業の目的は、地球の限りある資産であるガラパゴスの生態系の保護であり、気候変動対策がコベネフィットである。通常、生態系保護事業は、税金もしくは寄付金以外で事業資金を調達するのは容易ではないが、CDMにすることにより固有の新たな資金を獲得することが可能となる。

生物多様性保全に役立つCDM

今年、名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議 (COP10) が開催され、遺伝資源の利用から生まれた利益を提供国にも公平に配分するための国際ルールが採択された。生態系保全目標が設定されたとしても、利益配分の手法はまだこれからであり、既に自然保護区とされた地域での保全資金の獲得など運用に向けては、気候変動枠組み条約と同様、時間が掛かるであろう。その間も生態系が脅かされているガラパゴスのような地域にCDMを活用できれば、CDMの本来の意義である、地球の持続可能な発展の寄与に合致しよう。

CDMは個別案件特有の環境価値を金銭に換算させ、それ故民間が参入しやすい仕組みとなっており、この恩恵を受けている途上国は多い。当社がかかわるカンボジアのもみ殻案件に関しては、ヨーロッパの買い手から、ここにきてポスト京都のクレジットの購入希望が多く寄せられている。これは、カンボジアのような後開発国におけるCERは、買い手のポートフォリオの多様化に資するのみならず、EUETSにおいて価値低下のリスクが低いと考えられているからと思われる。

途上国から評価されるCDMの功績

市場メカニズムにおける民間資金の流通には自由度と可能性がある。2国間、多国間などの政府間ベースの資金流通に偏重すれば、その恩恵の受けられない国や事業者が出てくることは否めない。通常の風力発電事業に比べ、ガラパゴスの案件は生態系保護の規制が厳しいために環境影響評価により幾度となく計画の変更に会い、そのコストは政府の重荷となり、政府の資金や寄付では実施が困難な状況にある。炭素1tの削減は、温室効果においてどれも同じ1tといわれるかもしれない。しかしながら、公的資金にのみ依存することなく、ガラパゴスの案件のように、公的資金と民間資金が相乗的な効果をもたらしながら実現していくCDM事業固有の1tの価値は、誰もがそれ以上の価値を認めるのではないだろうか。

京都議定書の第1約束期間があと2年で終わるというリスクを懸念する先進国がいる一方で、CDM案件を登録するのに1年以上、発行するのに1年以上というこの状況でも、多くの非附属書国の誰もがCDMに期待するのは、明らかにCDMによる功績が評価されているからに違いない。