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寄稿 エクアドル・ガラパゴス諸島における風力発電CDM事業

三菱UFJモルガン・スタンレー証券
志村 幸美

(月刊 クリーンエネルギー 2011年8月号)

はじめに:対象都市の概要

写真1 サンタクルス島供給用のディーゼル油を運搬する小型船
写真1 サンタクルス島供給用のディーゼル油を運搬する小型船

ガラパゴス諸島は、13の主要な島と100以上の小島及び岩礁からなり、3万人の居住者を抱え、年間12万人以上の観光者を受け入れている。発電用燃料を含むほぼ全ての資源は諸島外部からの輸入に頼っており、運搬時の燃料流出事故が生態系破壊に繋がる可能性が高い。特に発電に使用されるディーゼル油は、オイルタンカーが諸島内の港に接岸することが難しいため、海上にて大型タンカーから小型タンカーボートに燃料を移してから、各港までディーゼル油を運搬する。そのため、油の漏出等の環境リスクがある。大型タンカー「ジェシカ号」の大量燃料流出事故発生以降、ガラパゴス諸島の脆弱なエコシステムの保護への注目が高まり、エクアドル政府は、2015年までに石油依存脱却を目指す「ガラパゴス諸島における化石燃料ゼロプログラム」を2007年に提唱。同プログラムの最初の取り組みとして、諸島内における発電所の化石燃料ゼロ化が掲げられた。

エネルギー事情

図1 ガラパゴス諸島における総電力発電量 (発電源別年間発電量 (MWh/年)
図1 ガラパゴス諸島における総電力発電量 (発電源別年間発電量 (MWh/年)

諸島内における発電は、基本的に本土から輸送されたディーゼルを燃料とする火力発電で賄われている。図1に諸島内の発電及び電力供給を担っているELECGALAPAGOS社が把握している諸島内の年間電力生産量を示す。この他、バルトラ島の施設等、系統電源が届かない島や地域では小型自家発電機により電力需要が賄われているが、詳細なデータは無い。

プロジェクトの概略

本プロジェクトは、エクアドル政府の公的事業として、7.5 MWの風力発電を主要13島の1つであるバルトラ島に建設し、同島及び隣接するサンタクルス島へ供給することで、ディーゼル発電機からのGHG削減を目指す。バルトラ島は、第2次世界大戦中米軍基地として使用されていた島であり、現在空港及び軍用地、石油会社の備蓄基地等が存在し、他の島に較べ生態系への影響が比較的低い。各施設は、自家発電機で電力を賄っている。一方、サンタクルス島は、諸島全域の総人口の約60%を占め、宿泊施設が多く、電力消費が最大の島である。同島における電源は、諸島最大の街、プエルトアヨラ市の発電所に設置されたディーゼル発電機である。

1基当たりの風力発電機の容量は750kWで、第一フェーズに3基 (2.25 MW)、第二フェーズに7基 (5.25 MW) を段階的に設置する。第一フェーズは、2012年3月の稼動を予定しており、第二フェーズはその二年後の稼動を計画している。第二フェーズの状況によっては、第三フェーズとして数基導入することが検討されているが、現時点で第三フェーズの概要については未定である。

導入機器の特徴は以下のとおりである。

  • 3枚ブレード、翼型、アップウィンド型ローター
  • IECクラスIII風力タービン
  • アクティブ・ヨー (首振りシステム)
  • ピッチ・コントロール
  • カットイン風速3m/s
  • カットアウト風速25m/s

計画と効果

ガラパゴス諸島への環境影響を最優先に考慮し、風力発電所建設地の選定に係る調査を2000年より開始した。事前環境影響評価が数回実施され、諸島内に生息する、もしくは渡り鳥等の通過する物相及び植物相へのリスクについて調査された。当初、送電線設置距離をできるだけ短くするため、風況が比較的良好なサンタクルス島の丘陵地帯に建設することが期待された。しかし、事前環境影響評価の結果、当初の建設候補地は、鳥類とコウモリの生息環境と飛行ルートに影響が及ぶリスクが高いことが判明したため断念され、バルトラ島が建設地となった。図2は、バルトラ島の概要図と風力発電所建設予定地である。同予定地では、50m地点の高さで、平均5~7.2m/sの風速が観測されている。風力発電タワーは、空港滑走路と並行して建設されるため、航空規定に定める空港滑走路からの隔離距離やタワーの高さ制限を考慮した。また、建設選定地に生息する鳥類及びコウモリの飛行高度は10m未満であることが調査の結果判明したため、鳥類の衝突リスクや死亡事故を最小限に抑える目的から、地表からブレード下端まで最低10mの高さとし、支線が必要ない風力タワーを採用した。

また、電力安定供給を図るため、同プロジェクトでは、サンタクルス島のディーゼル発電機とのパラレル運転が想定されている。そのため、風力発電所稼動にはSCADA (Supervisory Control and Data Acquisition) システムを導入し、サンタクルス島の発電所より風力発電所の遠隔操作を可能にする。

図3は、新設される送電線計画である。バルトラ島で発電された電力は、図中のB地点から変電所のあるA地点へ送電される。サンタクルス島を斜めに横切る送電線は、既存の道路に沿った形で建設される。

プロジェクトの遂行は、電力・再生可能エネルギー省の下、ガラパゴス再生可能エネルギープログラム (ERGAL) が事業全体の進行を監督・管理し、操業及びモニタリング等はガラパゴス諸島を担っている電力公社であるELECGALAPAGOS社が担当する。また、ガラパゴス諸島における全てのプロジェクトは、環境影響評価 (EIA) が求められている。EIAには、環境監視計画 (EMP: Environmental Monitoring Plan) の記載義務があり、本プロジェクトではガラパゴス国立公園と共同でEMPを遂行することで、生態系への影響の軽減化に努める。

図2 バルトラ島風力発電所選定地
図2 バルトラ島風力発電所選定地
図3 送電線配線計画
図3 送電線配線計画

本プロジェクトがもたらす持続可能な開発への貢献

本プロジェクトは、海上での化石燃料流出を未然に回避することで生態系破壊リスクを軽減する以外に、以下の追加的効果がある。

(1) 陸上運搬における燃料消費削減

写真1のとおり、燃料はバルトラ島-サンタクルス島間の海峡付近に停泊した小型船から陸上にあるタンクローリーにより供給される。供給地から発電所までの距離は42キロメートルで、ELECGALAPAGOS社によると燃料6,000ガロンの運搬あたり17ガロンのディーゼル油が陸上移動のため消費される。これは、2008年の数値によると往復で約1万ガロン (35 トン) のディーゼルが陸上輸送に消費されたことになる。本プロジェクトを導入することで、これらの燃料消費を追加的に減少させることが可能となる。

(2) サンタクルス島の土壌汚染環境の改善

サンタクルス島の発電所では、発電用燃料であるディーゼル油は所内の貯蓄タンクにて貯蔵されている。しかし、タンクの老朽化により燃料が土壌へ漏出しており、土壌汚染が問題視されている。本プロジェクト実施により、貯蓄量が次第に減少することで、発電所敷地内における土壌汚染を抑制できる。ガラパゴス諸島は、地質上汚染物資が浸透しやすい土壌であるため、更に深部にある地下水への負の影響リスク低減へ間接的に貢献する。

CDMへの取り組み

本案件立案時の計画では、CDMは考慮されていなかった。しかし、調査が進むにつれ、風力発電所建設地選定が長引き、離島という地理的に不利な条件だけでなく、生態系保護の観点から導入に対して様々な制約が追加された。そのため、発電所建設は技術的に通常以上に困難な計画となり、初期投資額が当初の見積もりより大幅に増加した。エクアドル政府は、度重なる財政難に加え2009年の水不足によるエネルギー危機により、本土における電力供給の見直しが進められている。そのための財源確保に、計画されていた一部の公共事業を中止している。このような状況から、同政府は本プロジェクトに対して追加資金の拠出が困難となり、CDMを用いて資金調達を図るため、CDMの実現可能性について三菱UFJモルガン・スタンレー証券 (旧:三菱UFJ証券) に相談した。同政府の依頼を受け、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、2009年度及び2010年度に実施された環境省/ (財) 地球環境センターのCDM/JI事業調査を活用して、CDM化を検討し、国連登録申請に必要なPDDを作成して、有効化審査を開始した。

GHG排出削減量は、「小規模承認方法論I.F.受け手側使用及びミニグリッド向けの再生可能発電」 (バージョン1) 」を用いて試算している。CDMでは、グリッド電源に接続されている全体の発電容量が15 MW以下で、国全域もしくは地域のグリッド電源網に接続されていない孤立した小規模の電力網を「ミニグリッド」と定義する。サンタクルス島は、孤立した発電所が1施設しかなく、設置容量が約5.3 MWであることから、同方法論が適用可能となった。最新の風況調査とマイクロサイティングの結果から試算された保守的な発電予測値に、更に10%のディスカウント・ファクターを用いた場合、第一・第二フェーズにおけるそれぞれの年間削減量は3,840t-CO2) と、10,974t-CO2) になることが想定される。排出係数は、サンタクルス島における発電所が、ディーゼル油のみを燃料として使用し、24時間稼動していることから、方法論に基づきディフォルト値である0.8t-CO2) /MWhを採用している。

おわりに:現状と今後の進め方

風力発電所は、2010年7月に機器メーカーに発注され、現在建設が順調に進んでいる。一方、送電線建設は、若干スケジュールが遅延しているが、2012年3月には建設及び稼動テストが完了し、発電が本格的に開始される予定である。CDMのプロセスでは、環境省のCDM/JI事業調査にて、有効化審査を2011年1月より開始した。翌月には指定運営組織 (DOE) によるサイト訪問を実施した。現在、バリデーション・レポート (案) を基に、風力発電所の稼動時期に合わせ国連登録を目指し最終調整中である。今後は、排出権の適切な買手をエクアドル政府へ紹介することで、ガラパゴス諸島の「化石燃料ゼロプログラム」発展に貢献していきたい。

【謝辞】
本プロジェクトのCDM化にあたっては、環境省/ (公財) 地球環境センターの2009年度及び2010年度のCDM/JI事業調査に採択され、有効化審査を開始することができた。ここに、関係者各位に対して心から感謝申し上げる。