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寄稿 クリーン開発メカニズムの課題と二国間クレジット制度の展望

三菱UFJモルガン・スタンレー証券
縫部 敦子

(月刊 エネルギーフォーラム 2011年8月号)

クリーン開発メカニズム (CDM) の現状

地球温暖化問題が深刻化する中、2012年末の京都議定書の第1約束期間の終了まで残すところ後1年半余りとなった。第2約束期間についての国際交渉は難航しており、カンクンで開催されたCOP16 (第16回気候変動枠組条約締約国会議) においては、京都議定書の延長とCDMの継続について議論されたが、結論には至らなかった。
クリーン開発メカニズム (CDM) は、京都議定書に定められた温室効果ガスの削減目標の課された先進国 (附属書I国) が、削減目標の課せられていない途上国 (ホスト国) において持続可能な発展に寄与する温室効果ガス削減プロジェクトを実施し、実施されなかった場合に比べ、追加的な排出削減があった場合、削減量に対し炭素クレジット (Certified Emission Reduction: CER) が発行される制度である。先進国は、この制度の下で創出されたクレジットを自国の削減目標の一部に充当出来る。日本をはじめ、国内において高効率、低排出機器の普及が既に進んでいる先進国では、技術革新などにより温室効果ガス削減を更に推進するには限界がある。CDMはそうした状況を考慮した京都メカニズムの柔軟性措置のひとつである。

CDMは、04年11月に第1号の登録案件が出て以来、全世界の総登録件数は3200件*1を超え、これまでに発行されたCERは6億5000万t余りに上る。11年に入ってからは発行申請に持ち込まれるプロジェクトの件数は飛躍的に増加しており、この1年以内に3億t余りのCERが新たに発行されることが見込まれている。
京都議定書の第1約束期間終了後の将来枠組みに関する交渉が依然として決着を見ない現在においても、いまだ数千件のプロジェクトが登録を目指して国連による有効化審査の段階にあり、これらのプロジェクトから第1約束期間中に発行が見込まれているCERは、プロジェクト設計書の試算ベースで27億tにも及ぶと想定される。こうした状況は、第1約束期間後の何らかの新しい実施規則が決定しCDMのスキームが存続し、クレジットとしてのCERの価値が維持されることを、多くの事業者が期待していることを示唆するものである。

クリーン開発メカニズム (CDM) の制度的課題

図1 CDMの仕組み 出展: IGES 図解・京都メカニズム第14版

CDMから創出されるCERは、削減目標を課せられていない途上国 (ホスト国) で新たに生じるものであるから、結果として先進国 (附属書I国) の総排出可能枠が増えることになる。 (図1)
従って、CERの創出においてはCDMの制度全体の監督を行うCDM理事会や、CDM理事会による認定を受けた第三者機関である指定運営組織 (DOE) が関与する有効化審査やCER の発行申請に関わる検証、および認証などの審査が要求されている。
CDMは、二酸化炭素の削減活動に経済的価値をつけた画期的な取り組みとして、これまで新興国・途上国の温室効果ガス削減および持続可能な発展において大きな役割を果たしてきたといえる。しかしながら、ここ数年は、審査プロセスの長期化をはじめとする制度の運用にかかわるさまざまな問題点が取りざたされている。COP16においてもCDMの改善と改革の必要性について途上国側からも明確に示され、さまざまな改善案が議論された。共通に認識されている主な制度的問題点には以下のようなものがある。

(1) 審査の厳格化と長期化

国連に提出される新規CDMプロジェクトの数は、毎年千数百件にのぼる。11年の上半期においても既に約900件が新たに有効化審査を開始しており、審査に要する期間は年々長期化し、国連提出から登録まで2年余りを要することもある。
新規案件数の増加による審査の長期化に加え、08年11月に国連CDM理事会により「有効化審査・検証マニュアル」が発行されたことは、審査の厳格化を加速させ、更なる審査の遅滞を引き起こした。同マニュアルは、審査の標準化を通じ、指定運営組織 (DOE) の作成する有効化審査及び検証報告書の質の確保を目的としたものであるが、DOEにはこれまで以上に忠実かつ綿密にマニュアルを適用した審査を行うことが求められることとなった。

一方、CDMの制度自体が「learning by doing」で運用されてきたことも、審査の長期化の要因となっている。CDM理事会では、方法論パネルや各種ワーキンググループを設け、排出削減量の算出の拠り所となる方法論や、CDMの運用ガイダンス、ルールなどの改定・更新が頻繁に行われている。これによりプロジェクトに適用していた方法論やツールが審査途中で改定され、最悪の場合、適用条件に不適合となりプロジェクト設計書 (PDD) の書き直しが必要な事態に陥るケースもある。制度として成熟させるために運用規定やルールの改善を行う必要はあるものの、その頻度や程度には多少問題があると言える。

(2) クレジット創出の不確実性

現行のCDMの制度では、プロジェクトの承認に関する最終的な決断はCDM理事会によって下される。従って、DOEによりプロジェクトがCDMとして適格であると認められても、理事会による最終判断においてDOEの見解と反した結論が出され、結果としてプロジェクトが却下されてしまうことがある。長期間の審査に耐えても、必ずしも登録にこぎ着けるとは限らないのである。このような場合、事業者には、CDM化を断念するか、再度有効化審査を一からやり直すか、いずれかの選択となる。

また、CDMにおける排出削減活動のモニタリングの要求は計測項目が多岐に渡り、一部の再生可能エネルギー案件を除いては煩雑な作業が必要とされる現実がある。バイオマス発電における燃料の運搬距離など、通常の事業の実施においては必ずしも必要でない計測項目もあり、途上国の事業者にとっては、CDMのモニタリングのためだけに高価な機器を調達することが出来ず、結果として、要求を満たすモニタリングが行えないことで、予定通りのクレジットが発行されないプロジェクトもある。

(3) 追加性の実証

CDMの資格は、炭素クレジットの追加的収入無しには採算性がとれず、通常の事業としては実現不可能なプロジェクトについてのみ認められる。これを追加性という。
プロジェクトの追加性を証明する手段の一つに投資分析の実施がある。プロジェクトの内部収益率 (IRR) を算出し、収益性が悪いことを証明する手段であるが、省エネ機器の導入などのプロジェクトなどにおいては、省エネによってエネルギーコストが軽減されれば、CERの収入が無くとも投資を回収できる場合が多いことから、追加性の実証が非常に厳しく求められており、CDMとして認められるのは特に難しい。また、例え省エネプロジェクトがCDMとして認められても削減努力に対するCERの量が比較的小さいことから、省エネ分野が得意な日本企業にとっても余り魅力的であるとは言えない。

(4) プロジェクトタイプ及び地域的偏重

CDMの対象となるプロジェクトタイプは限定的であり、現在実施されているCDMプロジェクトの60%近くを水力、風力及びバイオマス発電の再生可能エネルギーが占める。次いで多いのは農業廃水や廃棄物処理に関わるメタンガス放出回避プロジェクトである。

一方、CDMにおいては、わが国をはじめとする先進国が得意とする低炭素技術分野の多くが対象外となっている。例えば、高効率石炭火力の導入は発電については、対象国が石炭利用率50%以上の国というルールが設けられており、実質プロジェクトが行えるのはインドと中国に限られている。また、原子力発電はその安全面での課題が理由で認められていない。さらに、交通分野では、CDMは可能なものの、途上国におけるデータ整備が不十分であることや、移動体からの排出削減効果の特定が難しいことなどから実施されているプロジェクトはわずかである。
さらに、登録済み件数の80%以上がアジア地域 (うち、中国とインドで65%を占める) のプロジェクトで、次いで南米が17%、アフリカ地域に関してはわずか2%と、大きな地域的偏りも見られる。 (図2、図3)

図2 登録済みプロジェクトの地域別割合
(出展) http://cdm.unfccc.int/Statistics/Registration/NumOfRegisteredProjByHostPartiesPieChart.html
図3 登録済みプロジェクトの国別割合
(出展) http://cdm.unfccc.int/Statistics/Registration/NumOfRegisteredProjByHostPartiesPieChart.html

二国間クレジット制度

CDMは、上述のとおりさまざまな制度的課題を抱えつつも、これまで一定の成果を上げており、日本のように温室効果ガス排出削減の限界コストの高い国が経済力を保ちながら、20年までに1990年比で25%削減という目標を達成するためには、今後もCERを含む炭素クレジットの活用は不可欠である。
一方、CDMは本来、先進国の先端技術を用いて途上国でプロジェクトの実施を推進することが期待されていたが、これまでに実施されているプロジェクトのうち、海外からの技術移転を伴うものは全体の30%程度と言われている。CDMプロジェクトへの技術移転の実績が最も多いのはドイツ、次いで米国、デンマーク、日本となっているが、日本の実績は、製造プロセスの省エネや排熱・排ガス利用技術などの分野が中心となっている。また、技術移転全体の15%程度は途上国同士の移転であり、この多くが中国やインドの技術である。*2(図4)

図4 CDMプロジェクトの主な技術提供国 (プロジェクト数に占める割合)

  • (出展) http://cdm.unfccc.int/Reference/Reports/TTreport/TTrep10.pdf

こうしたなか、COP15 (第15回気候変動枠組み条約締約国会議) のコペンハーゲン合意により、先進国は削減目標を、途上国は削減行動を自主的に約束しこれを国際的な測定・報告・検証 (MRV) 制度を経て削減を達成するという、ボトムアップの仕組みが認められることなった。COP16のカンクン合意において米国や中国を含む途上国が納得した合意となったことから、京都議定書に基づく削減義務の課された国は世界全体の30%に満たなかったのに対し、削減目標や削減行動の対象となる国々は、世界全体の80%を越えることとなった。
日本政府としては、ボトムアップの仕組みを活用し、鉄鋼、セメント、高効率発電、家電、交通など、日本の優位性の生かせるインフラ分野の高効率・低炭素型の技術や製品を途上国に導入・普及するプロジェクトの推進を試みている。プロジェクトが実施された結果達成される温室効果ガスの排出削減効果を測定し、それを日本の削減実績として算入しようする「二国間クレジット制度」の構築を目的とした取り組みが開始されている。13年以降のポスト京都議定書の枠組みにおいて二国間クレジット制度が認められれば、国際的に日本の排出削減量に充当できることとなる。
既に10年度より二国間クレジット制度の候補案件となるプロジェクトの実現可能性調査が実施されており、30件が採択された。また、アジアを中心に、二国間約束に向けた政府間協議も進められており、特に、インド、インドネシア及びベトナム政府とは首脳級で合意に至っておいる。また、ラオスやカンボジアなどのメコン地域諸国においても、「グリーン・メコンに向けた10年」イニシアティブに関する行動計画の中で、二国間クレジット制度の検討を進めることとしている。

二国間クレジット制度の成功には、相手国と日本の双方がプロジェクト実施による便益を享受できるよう、排出削減の達成に加え先進技術の移転や公的資金の流入など波及効果のあるプロジェクトの実施と制度設計が重要と考える。そのためには、CDMで明らかになった問題点に対応した制度であることが望ましい。手続き面での柔軟性の担保は重要であるものの、基本的にはCDMの枠組みを参照しつつ、CDMの運用において特に大きな問題となっている部分は排除もしくは軽減を図るような方向での制度設計が必要である。どのように軽減される必要があるのかを検討し、制度に盛り込んでいくことが、国際社会の支持を得る制度の構築において重要となる。そして、二国間クレジット制度の実績が、将来的なCDMの制度の改革につながっていくことが期待される。

現在、制度設計に向けた日本政府による各種基盤整備調査も進んでいる二国間クレジット制度は、CDMなどの既存のメカニズムを補完するのみならず、CDMの制度改革を促す可能性があるなど、その意義は大きく、本年12月に南アフリカのダーバンで開催されるCOP17 (第17回国連気候変動枠組み条約締約国会議) において締約国に対してその概略が示され、制度構築に向け何らかの進展が見られることを期待したい。

  1. *1 CDMの実績に関する数字はすべて国連気候変動枠組み条約 (UNFCCC) ウェブサイト 2011年7月10日現在の情報
  2. *2 2010年6月30日時点で国連提出済みプロジェクト4984件が対象