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寄稿 節水機器普及による炭素クレジットの創出

TOTO     清水 康利
TOTO  豊貞 佳奈子
三菱UFJモルガン・スタンレー証券       吉高 まり
明治大学     坂上 恭助

(月刊 エネルギーフォーラム 2012年8月号)

震災後の日本の温室効果ガス排出量は予断を許さない状況にある。このため家庭分野の削減対策が指南されているが、最近、エネルギー効率の高い節水機器の普及によるCO2削減対策が注目されている。既に国内クレジット制度では節水機器普及によるCO2削減方法論が採択されている。

家庭分野の対策が目標達成を左右

京都議定書の第一約束期間の終了 (2012年) で、気候変動枠組み条約は新たなステージを迎える。わが国は京都議定書第一約束期間に1990年比で6%の温室効果ガス (GHG、以下CO2に代表させて、CO2と記す) 削減義務を負った。しかし、震災および原発事故などにより、日本はエネルギー政策の変換を迫られ、京都議定書第二約束期間への不参加を表明した。京都議定書目標達成計画の進捗状況について環境省は、10年までは超過達成しているが、京都議定書のベース年の90年と比べ、産業部門の排出量は減少しているものの、民生部門の排出量は大幅に増大していると報告している。家庭部門は34.8%増加しており (10年度)、震災後の火力発電の再稼動などを踏まえ達成に予断を許さない状況下で、家庭のCO2削減は日本の命運を左右しかねない。そのため、家庭由来で多くのCO2排出を占める自動車、家電機器の使用時排出に対し、最新のエネルギー効率の高い機種への買い替えを促進し、排出削減を推進するものとして、09年度よりエコカー減税が、10年度より家電エコポイントの買い替え助成金支出が実施されている。また、近年、トイレ、シャワーなどの水まわり住宅設備機器の節水性能をCO2削減と関連付ける研究が進み、節水機器の普及もCO2削減に有効との認識が深まったことも一助となり、節水トイレ、断熱浴槽への普及促進助成金 (住宅エコポイント) の支出も11年1月より実施された。

一方、国のCO2排出削減目標達成手法の一つである国内クレジット制度に節水機器普及によるCO2削減方法論が採択され、また日本政府が京都メカニズムに代わる新メカニズムとして国際的に提案している二国間オフセット・クレジット制度 (BOCM) でも節水機器普及によるCO2削減ポテンシャル評価の調査が実施されるなど、国内外で節水をCO2削減視点で評価する動きが活発化してきている。
そこで、近年の機器の節水性能の進化の概要と、節水研究の進捗、節水の炭素クレジット化に関する最新動向を概説する。

機器の節水性能の進化

トイレ、シャワーなどの住宅設備機器の節水性能は、年々進化してきている。トイレ (便器) の1回の洗浄水量は、汚物のトイレからの排出およびトイレに接続された排水配管からの汚物の搬送について、各種の洗浄性能試験や搬送性能試験を実施して、基本機能が担保されるよう設定される。
以前は、タンクに溜めた水の位置エネルギーを利用した流下で排水搬送性を確保しており、便器から汚物排水搬送時の流下抵抗の軽減設計を進歩させていくことで洗浄水量の削減を図ってきた。現在では、コンピュータシミュレーション技術 (CAE) を活用した設計などで、更なる節水が実現できている。トイレ洗浄水使用量の変遷を図1に示す。70年代初頭まで、洋風トイレの洗浄1回あたりの水量は、大・小とも16Lと大量の水を使っていた。76年に節水トイレの先駆けとして、大・小洗浄13Lのトイレが登場し、その後も市場の更なる節水要請により、水量は3.8Lまで削減が進んでいる。
海外においては、92年に米国で制定されたEnergy Policy Actにより、トイレの大洗浄水量は6L以下が義務付けられ、欧州・中国・シンガポールなどの一部でも同様の水量規制が設けられたことが契機となり、便器の節水化が急速に進行している。
家庭での水使用がトイレに次いで多い浴室でも節水化が進んでいる。近年は、核家族化の進行などにより、入浴をシャワーのみで済ますシャワー浴が増加している。当該シャワーでは、感性工学による設計で快適性を損なわずに流量を削減する努力がなされており、従来の流量:10L/分が、最新のエアインシャワーでは、35%削減 (6.5L/分) されている。
トイレは、20年前後、シャワーは、10年前後で買い替えられるが、この各機器の節水性能の進化が、買い替えによる水使用量削減効果を生んでいる。

図1 トイレ洗浄水使用料の変遷

水とCO2とを関連付ける研究動向

節水が社会のCO2削減になるとの考えは、水のCO2排出係数 (0.59kg-CO2/m3) が環境省の環境家計簿に96年より掲載されているごとく、国内で社会認知されていたものの、これまで、節水で実現できるCO2削減の貢献度の大きさが論じられてこなかったため、CO2削減策としての節水は注目されてこなかった。

そこで筆者らは、先に示した水まわり住宅設備機器 (トイレ、シャワーなど) の節水化で実現できるCO2削減ポテンシャルの予測研究を実施した。その結果、企業による節水機器のさらなる開発努力に合わせて、行政の節水機器普及支援、生活者の節水意識の向上により、20年には、90年比で水まわり由来CO2排出の25% (日本の総排出の1%) 削減が可能との提言を行った。*1この研究成果の行政への提言もあって、11年には、それまであった住宅エコポイント制度に節水便器、断熱浴槽が追加となった。
また、継続的な節水機器普及促進策の構築を目指して、節水機器普及によるCO2削減効果の炭素クレジット化を想定した研究を進めた。

節水機器普及による炭素クレジットの創出

炭素クレジットとは温室効果ガス (GHG) 削減量のことで、金銭価値をもって取引される。京都議定書において、GHG削減目標を持つ先進国が自国の目標達成に、クリーン開発メカニズム (CDM) などの手続きを経て国連で承認を受けた炭素クレジットなどを他国より購入して自国の排出削減の一助とすることが認められている。なお、日本国内で排出権という場合、この京都議定書において認められている炭素クレジットのほか、日本政府が国内のみで価値を認めている国内CDMクレジット (経済産業省承認) とJ・VERクレジット (環境省承認) がある。
建築分野でのクレジットの創出は、建物の空調、照明などの省エネ改修や、太陽光発電導入により削減された従来の電力消費分をCO2換算してクレジット化する事業が既に展開されているが、節水機器の導入により実現する従来の水消費の削減分をクレジットとして評価する方法論は、これまで国連CDMも含め構築されていなかった。
節水機器普及によるCO2削減効果は、トイレ、シャワーなどの機器の買い替えによる節水性能差に機器の使用実態モデルを乗じて節水量を算出し、さらに水のCO2排出係数を乗じることで算出される。
そこで、筆者らは、節水量をクレジット化するための水のCO2排出係数の精査から研究を展開した。節水によるCO2削減は、図2に示すごとく、上下水道でのエネルギー消費削減ととらえることができる。上下水道のエネルギー消費の90%が電力で、電力のCO2排出係数が発電源構成比 (原子力、火力など) の影響を受けて毎年変化することを考慮すると、クレジット方法論での水のCO2排出係数に環境家計簿での固定値を採用するのは、不適切と考えられた。日本の水収支全体を考慮して、毎年、日本全体の上下水道システムの運転管理データが公開される上水道統計、下水道統計などを用いて、積み上げ法で水のCO2排出係数を年度別に改めて設定した*2

図2 上下水道のエネルギー消費削減モデル

水のCO2排出係数の再設定が進んだことから、節水によるCO2削減をクレジット化する方法論が、節水トイレ、節水シャワー、浴槽を対象に、11年12月に国内クレジット認証委員会にて承認された。これにより、節水がエネルギー起源CO2排出の削減に繋がることが正式に認められたこととなり、これまで採用の進まなかった各種省エネルギー政策に、節水も選択肢のひとつとして加わっていく契機となることが期待される。
同方法論を受けて、TOTO株式会社より、プログラム型 (順次追加参加可能) の排出削減事業が提案され、事業が開始されている。
節水機器への買い替えによるCO2削減は、事業期間 (機器使用期間) 中継続し、3.8Lトイレでは、4人家族の場合、住宅当たり年間約23kg-CO2、6.5L/分のエアインシャワーでは、約112 kg-CO2の削減量が見込める。クレジットは、環境配慮機器の設置運用後、その効果を検証して、機器の使用期間にわたり発行され、国のCO2削減目標に貢献できる。今後、当該クレジットと関連付けた普及助成金の創出などが期待される。
また、住宅分野でのクレジット事業では、ユーザーのCO2削減量が見える化されることから、ユーザー (生活者) の環境意識の高揚にもつながり、家庭のCO2削減の好循環が生じることも期待される。
現方法論は、トイレ、シャワー、浴槽を対象としたものであったが、今後、ほかの商品群への拡張なども準備されつつある。

中国・大連市で実現可能調査

11年度環境省委託調査事業「中国・大連市における節水型衛生機器普及による水使用量削減に伴う省エネに関する実現可能性調査」が、三菱UFJモルガン・スタンレー証券・北九州市・明治大学・TOTOの共同研究として実施された。これは、日本政府が新市場メカニズムとして提案する二国間オフセット・クレジットの実現可能性調査として、前述した日本国内での節水関連研究手法が汎用手法として、アジア諸国にも適用可能か検討するものであった。調査手法構築のモデルとなった日本では、上下水道、都市の整備がほぼ完了し、ストック型社会をベースラインとして、ストック型社会の機器が、最新式の節水機器に置き換えられるとする評価モデルであった。一方、中国大連市は、都市の近代化、拡張が進行中であるため、人口増加計画に対応した上下水道整備、建物新規整備などが進行する状態も加味したベースライン設定、ポテンシャル評価が必要であった。これらに対しても、日本で構築された評価手法は、都市整備計画情報を折り込むことで、節水機器の普及による環境貢献ポテンシャル算出に対応できることが確認された。また、大連市の水のCO2排出係数は、日本の3倍程度と大きく、トイレなどの節水化による一人当たりのCO2削減効果は、日本より大きいことも明らかとなった。中国の水のCO2排出係数が大きいのは、中国でも上下水道のエネルギー源は電力で、当該電力のCO2排出係数が、日本より大きいことが起因していた。

アジア諸国では、急速な近代化・都市化が進行中で、そのために生じる水消費拡大、CO2排出増加が深刻となっている。節水機器の普及促進は、近代化の足かせとなる水資源不足リスクを緩和させ、あわせて、温暖化対策にも寄与すると期待されるが、この調査により、節水研究手法は、都市化が進行中のアジア諸国に対しても有効なことが確認された。

アジア各国への広がりと今後の展望

節水研究手法をアジア各国で共有化し、節水の貢献ポテンシャル評価を各国で実施するものとして、アジア各国の研究者が共同研究を推進する、アジア節水会議が11年12月に設立された。*3アジア節水会議では、参加各国で節水の貢献ポテンシャル予測とともに、節水型社会形成推進のための規準整備、節水政策提言、社会啓発も行う。
その一環として、11年12月の設立総会時に、国土交通省、経済産業省、環境省の後援を受けて、明治大学でアジア節水会議・シンポジウムを開催し、アジア各国での節水研究の意義と今後の活動方針などを広く情報公開した。現在は、日本、韓国、中国、台湾、香港に各国代表幹事を置き、日本と各国間での共同研究が開始されている。またベトナムほかの国々からの加入要請を受けた協議も進みつつある。各国の節水ポテンシャル評価研究には、アジア節水会議が推進役になることで、日本からアジア、さらにグローバルに節水型社会形成を推進する仕組みがの整備できた。

一方、11年12月南アフリカのダーバンでの第17回気候変動枠組み条約締約国会議 (COP17) で採択された、全世界が参加する新しい法的枠組み実施の2020年に向けてさまざまな国際交渉が開始されている。日本政府はBOCM制度を提案しているが、途上国からは日本はCDM制度を殺すのかと批判されている。そこで、既存のCDMが製品利用による省エネ事業促進に不向きな枠組みであることの理解を促しながら、途上国にとって本事業のような節水などのコベネフィット (温室効果ガス削減以外の副次効果) のあるGHG排出削減事業を示していくことにより、BOCM制度を受け入れてもらうことが得策と考える。
節水機器普及促進は、アジア地域を中心に、水問題、温暖化対策などへのソリューションとなる。今後、さらに多くの地域の研究者の参画により広範囲に節水研究の輪が広がり、地球規模での温暖化対策が進むことを期待する。

  1. *1清水ほか:水まわり住宅設備機器由来CO2排出量の将来予測、空気調和・衛生工学会論文集、No.163,pp.11-18,2010)
  2. *2豊貞ほか:水由来CO2排出係数の推定、空気調和・衛生工学会論文集、No.176,pp.1-7,2011)
  3. *3http://aswc.asia/