ジム・ロジャーズの「有事に備える」資産防衛術(下) 私ならこれに投資する

2022/12/30

世界的投資家として知られ、コロナ危機後のラリー(再上昇相場)の到来など数多くの予測を的中させてきたジム・ロジャーズ氏。インタビューの2回目は、円安や物価高など苦境が続く日本経済の先行きや、日本人が今後どのように資産を防衛すべきかについて聞きました。
(インタビュー・構成:花輪陽子)

【前回記事】「商品の時代」インフレで再来か

日本人のための資産防衛術は?

――ロジャーズ氏は日本の将来について悲観的なことで知られますが、そんな日本人のための資産防衛術について教えてください。

まず前提として、私の投資手法は「安いこと」と「変化」に尽きます。安くてプラス変化が起きているものを見つけ出して買うことです。投資対象としての基準を満たしている候補が見つかれば、十分に調査して確信が持てたら慎重に購入をします。その上で、できれば自分が得意な分野に投資をすることをおすすめします。

では、日本人はどう資産を防衛すればよいのか。それは、私の書籍の中でも書いているように、円が現在の価値を保っているうちに、早急に外貨投資を検討すべきだと思います。

現在、多くの資産を持っている高齢者たちは、基本的には円高の時代を生きてきた人たちだ。円で資産を持っていれば、その価値は相対的に上がっていった。現金で貯金を増やしていくという行動は、大きく間違ってはいなかった。しかし、これからは円の価値が下がることを考えて行動をしなければならない。日本人のほとんどが老後の生活は日本円で保有する資産と年金をあてにしている人が多いだろうが、そういう人ほど痛手が大きくなる。額面通りの金額を受給できたとしても、円安とインフレで実質的な価値は大きく目減りしてしまうからだ。

引用:ジム・ロジャーズ『世界大異変 現実を直視し、どう行動するか』東洋経済新報社、2022年8月

観光、農業、教育分野が明るい

――円安や物価高など苦境が続く日本経済ですが、今後をどう見ていますか。

日本経済は、円安で厳しい部分もありますが、いくつか明るい産業があると考えており、その中でも観光業の将来は明るいと考えています。なぜなら円安が続くにつれて、海外諸国と比べて日本への旅行者が激増するはずだからです。物価を考慮した実質的な円の価値では、50年前の高度成長期のころの水準まで落ち込んでいるとも言われています。

日本は交通などのインフラ利用料が高く、外国人観光客にとって高価な国でした。しかし円安によって自国の通貨をより多くの円に交換できるようになり、日本に訪れる妙味が増しています。2015年に流行語にもなった「爆買い」で日本を沸かせた中国人観光客も、コロナ禍で数年にわたって海外旅行を我慢し続けた今、日本へ旅行をしたくてうずうずしていると思います。円安が継続すれば中国からの旅行客が増えるでしょう。また私は自分の書籍の中で言い続けていますが、日本の農業に関しても将来性を感じています。

例えば、イチゴや桃やブドウなどの果物は世界的に見ても高い競争力を持っている。事実、日本の果物が中国やシンガポール、ヨーロッパの高級食料品店で売られている。現地までは空路で持っていくわけだから、その分のコストの分、値段は高くなる。それでも売れるということは他にはない価値があるということだ。

また、最近はコンテナの冷蔵技術の進歩もあって、野菜も新鮮なまま中国やシンガポールで売られており、食の安全や質に対する意識が高い富裕層を中心によく買われているという。これはほんの一例で、日本の農産物のレベルが高く、世界に目を向ければ、新たな市場を獲得できるだろう。

引用:ジム・ロジャーズ『世界大異変 現実を直視し、どう行動するか』東洋経済新報社、2022年8月
コロナ禍の前は銀座で爆買いする外国人観光客の姿がしばしば見られた(画像=7maru/stock.adobe.com) コロナ禍の前は銀座で爆買いする外国人観光客の姿がしばしば見られた(画像=7maru/stock.adobe.com)
コロナ禍の前は銀座で爆買いする外国人観光客の姿がしばしば見られた(画像=7maru/stock.adobe.com)

教育分野にも伸び代があると感じます。日本は韓国や中国と比べると人口比で大学の数がとても多く、留学先として行きたいと思っている外国人の生徒が多いからです。韓国や中国の子供と話すと、大学の数が少なく競争が激しいので、大学に入学できないと言います。そういう生徒には、私は日本の大学をすすめることにしています。

優秀な学生を求めている大学はもちろん、学生が足りずに廃校に追い込まれている大学にとっても留学生の受け入れは、絶好の機会となります。実際、すでに外国人を積極的に受け入れる日本の大学も増えてきており、外国人留学生のための宿舎も整備されてきていますね。

ETFなどのインデックス投資は有効

――具体的な金融商品で注目しているものはありますか。

「個別企業の調査がおっくうだ」という人も多いでしょう。そんな個人投資家にとって、特定のインデックス(指数)に連動を目指して運用されるETF(上場投資信託)は、海外の株式にアクセスする有効な手段です。こうしたインデックス投資がプロをも含む大半の投資家をアウトパフォームするという研究結果も出ています。日経平均株価など株価指数に投資するETFのほか、商品(コモディティー)市場を代表する指数への連動を目指すETFもあるなど、種類が豊富なのが特徴です。

インデックスには、大企業のインデックスや中小企業のインデックスなどさまざまなものが存在しますが、私は現在、日本の小型株のインデックスを保有しています。なぜなら強気相場の最後には、次の急騰する株を探す中で小型株が最も上昇する傾向があるからです。私は小型株のインデックスを持っていますが大企業のインデックスでもなんでもよいと考えます。

農産物のインデックスへの連動を目指すETFに関しても、米国の証券取引所のほか、東京証券取引所にも上場しています。これらを活用することで、初心者もプロと同じ土俵で投資ができ、利益を上げることが期待できるでしょう。

  1. アウトパフォーム:投資成果を表す言葉で、運用成績が目標指数(ベンチマーク)を上回ることを言う。
ジム・ロジャーズ氏

ジム・ロジャーズ氏

ジム・ロジャーズ氏

1942年、米国アラバマ州生まれ。イェール大学で歴史学、オックスフォード大学で哲学を修めた後、ウォール街で働く。ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立し、10年間で4,200%という驚異的なリターンを上げる。37歳で引退した後、コロンビア大学で金融論を指導する傍ら、テレビやラジオのコメンテーターとして活躍。2007年よりシンガポール在住。ウォーレン・バフェットとジョージ・ソロスと並び世界三大投資家と称される。『世界大異変 現実を直視し、どう行動するか』(東洋経済新報社)等日本での書籍も多数ある。

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