馬渕磨理子の世界経済先読み術(2) 日本の景気に過度な悲観は必要なし、ただしインフレへの対処は重要

2023/3/31

著者/馬渕磨理子

「日本一予約が取れない経済アナリスト」として知られ、各メディアで引っ張りだこになっている経済アナリストの馬渕磨理子さんが、経済や金融相場の動向などについての考えを4回にわたってお伝えするこの企画。2回目となる今回は、日本企業の動向やインフレへの対処の仕方などについてお話しします。

12月発表の日銀短観から読み解く日本の景気

2022年12月14日に発表された日銀短観では、大企業・製造業の業況判断指数(DI)が、「4四半期連続で悪化」し、見出しとしては景気の先行きへの不安が高まる内容になりました。確かに、「4四半期連続悪化」と聞くと、悪い印象を持ってしまうでしょう。しかし、きちんと中身を見れば、そこまで悲観するような内容ではなく、むしろ良い兆候が見えつつあるというのが私の感想です。日本経済の主力産業である自動車セクターが小幅ではあるものの、改善しています。機械セクターも堅調でした。

  1. 日本銀行が調査・発表している「全国企業短期経済観測調査」の通称。年4回(3・6・9・12月)、景気の現状と先行きについて約1万社の企業を対象に調査し、その集計・分析をもとに日本経済を観測している。業況判断指数(DI)は景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いて算出する。

DIが4四半期連続して悪化した理由の1つが、石油・石炭セクターが大幅に悪化したこと。これは、原油をはじめとしたエネルギー価格が下落したことによるものです。日本経済全体を考えた時、自動車や機械セクターが堅調であれば、そこまで心配する必要はないでしょう。また、機械や食品、金属製品セクターではそれぞれ製品への価格転嫁が進んだことで、業績も改善傾向となりそうです。つまり、DIの悪化は石油や天然ガスなどの価格が下がったことが原因で、製造業全体ではそこまで不安視する必要はないということです。

さらに、非製造業の数字が改善しているのもポイントです。情報・サービスに関して大企業がプラス40と9月調査に比べて4ポイント改善したことは、グロース(成長)市場にとって好材料です。また、2022年10月に新型コロナウイルスの水際対策が大幅に緩和され、経済活動が再開したのもサービス産業にとってはプラス材料でしょう。

日銀短観の中でチェックしてもらいたい項目が、「企業の想定為替レート」と「設備投資」です。想定為替レートは、6月調査分では1ドル=118.96円、9月調査では125.71円、12月調査では130.75円と、徐々に円安方向に修正されています。そうなると、「製造業に関しては業績の改善が見込めるな」と読むことができます。

また、景気の先行指標の1つとして注目の設備投資については、2022年度は全産業で15.1ポイントのプラスでしたが、悪いというよりむしろ良いという印象。製造業、非製造業とも、設備投資に関して高めの水準を維持できているのは好印象です。日銀短観は、全国9,000社超にアンケートを取った内容をもとにしたデータで、回答率が99%超と非常に高いのが特徴です。要は、企業の実態を反映しているデータなので、景気の先行きを予測するうえで、想定為替レートや設備投資はチェックしておきたい項目です。

今回の日銀短観に関して、大手メディアは「四半期連続悪化!」などと悪い印象を与える見出しをつけていますが、きちんと内容を見れば、逆の印象になるはずです。日銀短観では、見出し、サマリーも重要ですが、それだけではなく、少なくともセクターごとのDIや想定為替レート、設備投資の項目の数字くらいはチェックしておくべきでしょう。そうすれば、見出しとは逆の印象を受けるケースが出てくると思います。

日本円と米ドルへの分散投資も検討

日米両国の景気が、現状ではそこまで不安視する内容ではないとお伝えしてきました。そうはいっても、毎日のように製品やサービスの値上げが報道されるのを見ていると、やはり物価上昇については不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。私たち日本人はインフレに対してどう対応すればいいのでしょうか。

1つは、仕事を頑張って収入を上げるという方法です。賃金上昇が見込めない人については、副業で稼ぐか、投資をするしかないでしょう。インフレ下では通貨の価値がどんどん下がっていきます。現金や預金だけで資産を保有していると、資産は目減りする一方です。資産を失わないためには、物価の上昇率を超えるだけのリターンを得る必要があります。

また、2022年は急激な円安が話題になりました。円安が進めば、世界の通貨に対して円の価値が下がるわけですから、当然、日本円の預金も価値は減ります。円安とインフレに対抗するには、日本円以外の通貨を持つか、円建てではない金融資産に投資するしかありません。少なくとも、金融資産を日本円と米ドルには分散しておくべきでしょう。

不動産クラウドファンディングへの投資も一手

インフレ下で上がる資産としては株や不動産などが挙げられます。しかし、株の個別銘柄の数(2022年12月時点で東証だけで4,000銘柄近くあります)を聞いただけで投資への意欲を失ってしまう人や、不動産投資はハードルが高いというイメージを持つ人が多いかもしれません。

株式投資で個別銘柄に投資しようとするなら、ある程度の勉強や研究が必要になるのは確かです。そこまで深く掘り下げなくても、ETF(上場投資信託)や投資信託などへの分散投資でも構いません。また、現在の不動産の市況は良いので、不動産投資もしておきたいところではあります。しかし、あまり投資になじみがない方にとって、やはり不動産の現物への投資はややハードルが高いでしょう。

こういった方は「不動産クラウドファンディング」への投資を検討するのも一手です。不動産クラウドファンディングは、民間の会社(主に不動産会社)が投資家から募った資金を元手に不動産に投資し、家賃を投資の口数に合わせて投資家に分配する金融商品です。仕組みとしては、REIT(不動産投資信託)に似ています。

  1. 当社(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)でのお取扱いはございません。

現在、不動産クラウドファンディングは数多く販売されていて、年間の利回りが4〜5%と高い商品もあります。この不動産クラウドファンディングに投資するだけでも、物価上昇率分をカバーできる程度のリターンは得られるのではないでしょうか。

REITも利回りが4~5%程度の銘柄が少なくないですし、REITへの投資も選択肢として考えてもよいでしょう。ただ、REITは上場していて、個別株と同じように価格が日々上下します。要は、購入するタイミングによっては、値下がりするリスクがあります。

一方、不動産クラウドファンディングには値動きがありません。そのため、年間のリターンを事前に計算できるのがメリットの1つです。もちろん、民間企業の商品なので、どんな企業が販売しているのか、過去の利回りの実績はどうなっているのかはチェックが必要でしょう。1万円から投資できますし、個人的には比較的取り組みやすい投資先だと思っています。

注意したいのは、12月に開かれた日銀の金融政策決定会合で、長期金利の上限が引き上げられたこと。今後、その影響が不動産市況にも出てくる可能性があります。ただし、不動産クラウドファンディングの償還は1年前後と期間が短いものが多く、市況の不透明感が漂う中、期間が限定されていることが優位に働くかもしれません。

馬渕磨理子

馬渕磨理子

馬渕磨理子

日本金融経済研究所代表理事
京都大学公共政策大学院 修士課程を修了。トレーダーとして法人のファンド運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリスト、日本クラウドキャピタルのECFアナリストなどを経て2022年に一般社団法人日本金融経済研究所を設立。代表理事を務める。また同年、ハリウッド大学院大学の客員准教授に就任。経済アナリストとして、関西テレビ、読売テレビ、BSテレビ朝日、日経CNBC、NewsPicks、ストックボイス、プレジデント、ダイヤモンド、SPA!など多数のメディアでコメンテーターや執筆活動を行う。フジテレビLiveNEWSαにレギュラー出演中。「経済がより良い方向に向かうために必要なこと」「企業IRのあり方」などについて、メディアを通して提言。著書に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』(ダイヤモンド社)、「京大院卒経済アナリストが開発!収入10倍アップ高速勉強法」(PHP研究所)ほか。

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