伝説の編集長・山本隆行氏が語る活用術(下) 四季報で銘柄探し ココに注目!

2023/8/1

個別銘柄投資のヒントや手掛かりが凝縮されている「会社四季報」。ただし漠然と見ているだけでは、どの銘柄が有望なのか、どこに注目すればよいのかは見えてこないかもしれません。会社四季報の元編集長で「伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい」(東洋経済新報社)を上梓した山本隆行氏によれば、実は年4回発行されている会社四季報でも、それぞれの号で特徴があるといいます。また業績だけでなく、「設備投資・減価償却」「従業員の平均給与」といった項目も投資の参考になるのだそうです。インタビューの2回目は、会社四季報を活用した具体的な銘柄選別のヒントをアドバイスしてもらいました。

【前回記事】四季報の独自予想はこうやって決まっている!

増額期待の銘柄を探すなら「会社四季報・秋号」

――年4回発行される会社四季報のうち、6月に発売される「夏号」が最も売上部数が多いそうですね。

東証プライムに上場する企業の6割強が3月期決算企業です。その本決算実績と、今期、来期の2期分の業績予想が掲載されているのが「夏号」です。そのほか、財務内容や指標など本決算が出た後であらゆる数値が入れ替わることが、その理由だと考えられます。

ちなみに、次に売上部数が多いのが3月期決算企業の第2四半期実績(中間期決算)が掲載される「新春号」です。四半期決算導入前の上半期・下半期決算時代の名残だと思いますが、年末年始にゆっくり読めるというのも理由でしょう。

会社便覧という意味では「夏号」が一番便利そうに見えますが、実は一番“凡庸”な号ともいえます。その理由は、独自増額の銘柄数が最も少ない号だからです。外部環境を見ると、為替相場や原油などの商品市況は総じて動意薄(相場が動く気配がない状態)の時期にあたります。通期業績を予想するうえで参考となる月次の販売データや受注動向もそろっていません。会社側が発表した数字を前提に取材している記者にとって、業績を独自に増額・減額できる根拠が少ないタイミングなのです。事業的にも期初とあって、突っ込む材料が少ない時期でもあります。

――具体的なデータはありますか?

全上場3,861社が掲載された2022年夏号を例にとってみると、3月期決算企業の独自増額銘柄数(四季報予想の方が会社側予想より10%以上強気の銘柄数、営業利益ベース)は58社と3月期企業全体の2.5%しかありませんでした。他の決算期を入れても独自増額は150銘柄で全体の3.8%です。ところが、9月に発行される「秋号」になると全体で486銘柄に急増します。

――どうして「秋号」で独自増額銘柄が急増するのでしょうか?

業績動向を予想するためのデータがそろい始めて、第1コーナーである第1四半期(4-6月)を周った時点で、業績面で猛然とダッシュする銘柄がわかってくるためです。中にはこの段階で早くも通期業績見通しの上方修正を発表する企業も登場してきます。

注目すべきはこうした“第1四半期増額銘柄”は、かなりの確率でその後も再増額修正をしてくるという点です。2006年4月から2021年12月20日の約15年9カ月の間に発表された決算で、期初、第1四半期、第2四半期の3つの時点において会社側の営業利益がすべてそろっている4万5,758件を対象に調べてみたところ、第1四半期に上方修正した企業2,283社(全体の5%)のうち、第2四半期も上方修正した企業は1,140社と約5割の企業が連続上方修正をしていたのです。

結果的に、第1四半期で増額修正に進んだ企業は高確率で2度目の業績上方修正があることになります。1回目の増額で株価が上がったところで値ごろ感がなくなり、利益確定売りが出て押し目が形成されますが、2度目の増額では再び株価が上昇するチャンスが生まれるわけです。

――それでは、今期に限るとどうでしょうか。

2023年3月期第1四半期決算で早くも上方修正したのは106社ありました。会社側が予想を発表してないところもあり、期初予想と第1四半期予想ともにデータとしてある企業を対象とすると5.2%にあたります。興味深いことに、第1四半期に上方修正した企業の割合は、過去15年でも5%、今期もやはり5%だったわけです。

――この5%の増額修正という数値データは日本の3月期企業の特徴なのでしょうか。

2000年以降の株式市場は、リーマンショックやアベノミクス、新型コロナウイルスの世界的感染拡大など、何十年に1度、何百年に1度という山や谷を経験してきました。それにも関わらず、不思議なことにこの5%という数字に落ち着いています。不景気だからこそ業績を伸ばす企業もあります。新型コロナ第1波では巣ごもり需要が発生し、食品スーパーが業績を伸ばしました。円安がフォローになる企業もあれば、逆に円高がフォローになる企業もあるはずです。そう考えると第1四半期で上方修正する3月期企業は、絶えず5%程度はあるとみてよいのかもしれません。

投資家は会社四季報が強気で見ている企業を知りたいはずです。第1四半期段階では会社側はまだ通期の業績見通しに慎重なものの、第2四半期で増額してくる予備軍をキャッチするうえでも、「秋号」の活用余地は大きいのです。

(画像=株式会社ZUU)
――業績面での会社四季報・秋号の特徴はおもしろいですね。一方、インカムゲインの配当についても投資家の関心が高まっています。

実は、会社四季報の制作にあたっては、配当予想は業績予想よりも難しいといえます。上場企業にとってキャッシュアウトとなる配当については業績数字以上に神経質で、オーナー企業では特に強い傾向があるようです。業績については四季報予想なので企業サイドも否定はしてきませんが、増配しないときはきっぱりと「それはない」と否定するケースもあるほどです。

業績予想は決め打ちできても、配当だけは決め打ちできないことから、配当については「●円~●円」と幅を持った記載となるケースがあるのは、このためです。

設備投資、減価償却、平均給与・・・意外な注目ポイント

――業績や配当以外で投資の参考となる会社四季報で注目の項目はあるでしょうか。

見落とされがちですが、設備投資額や減価償却の項目は意外と重要です。最近は業績予想を出さない企業が増えてきましたが、逆に業績予想は発表しているのに会社四季報を見ると、設備投資額や減価償却を明示していない企業があります。この数字を確定させないでどうやって通期の業績予想を出すのでしょうか。こうした企業は、個人投資家を相手にしていないのではと疑いたくなります。

実は減価償却費と設備投資額は会社の拡大意欲を推し量るヒントになります。株式投資では償却費よりも設備投資額が多い企業を選ぶのがポイントの一つになります。逆の場合は設備が老朽化し、更新や改修程度に収めていることを意味しています。設備投資額を細かく示している企業は開示姿勢が積極的で好感できるでしょう。

また、足元では企業の賃上げが社会的な関心事となっていますが、従業員の平均給与額も注目できるデータです。どんなに業績の良い会社も、最後に年収をチェックし、「40歳で700万円以上」あるかどうかを銘柄選択の一つの基準にするようアドバイスしています。従業員給与は、企業が持続性ある利益の出し方を構築しているかどうかを測る物差しでもあります。「40歳で700万円」というのは私の経験則にすぎませんが、投資家にとっても社員にとっても良い企業と判断できる基準だと考えています。もちろんすべての会社が平均年齢40歳のはずがないので、36歳なら670万円とかに引き直して考えます。

ある半導体関連企業は業績面では最高益更新が続いていますが、年収は41歳で600万円台前半となっていました。こうした企業は、いつかは社員が離れるなどの懸念があり、投資対象としては疑問が残ります。

また、前回の会社四季報と比べてこの給与額の項目が上がっていれば、会社が繁忙なのかを知る手掛かりにもなります。会社四季報の「年収」には残業代とボーナスが含まれているのがミソです。仕事量が増えれば残業が増え、ボーナスも増えるはずです。企業の繁忙は業績数値だけでなく年収の変化から読みともことができるのです。3月期企業の場合、会社四季報では夏号の年1回、データが更新されます。

――株主動向が掲載されているのも「四季報」の特徴です。なかでも海外投資家の保有比率を増やしている銘柄に対する関心も、個人投資家、機関投資家を問わず高いようです。

3月決算企業の場合、夏号と新春号の2回にわたって株主データが更新されています。ここ1年は値上げラッシュで生活防衛関連企業の業績好調が注目されていますが、東証スタンダードで中古ブランド品販売事業を展開する企業や、カメラや時計など専門性の高い商品を買い取る東証プライム上場の企業などは、この海外投資家保有株比率が上昇している顕著な銘柄です。前者の企業の場合はその持ち株比率が2022年9月末で21%と半年前の12%から大幅に上昇しています。3月期の場合、新春号と夏号でデータが更新されて比較ができます。

会社四季報オンラインと併用することでより便利に

――各種のデータを比較する場合は、過去の会社四季報と比較することも必要なわけですね。ただ、過去の四季報が手元にない場合もあります。

会社四季報を数年間にわたって保管しておくことが理想ですが、無理な場合はWeb版の「会社四季報オンライン」を利用する手段があります。サービス内容によってはすべての機能を利用でき、過去の四季報紙面をPDFで創刊号から閲覧できるほか、外国人持ち株比率などを検索機能でランキングできます。

また、会社四季報オンラインでは、従業員1人当たり利益および1人当たり売上高のデータがあり、これが株式の売買のタイミングを計るデータともなります。従業員数が増えている企業は経営者の自信の表れでもあります。そして、1人当たり売上高が上昇している間は成長途上、逆に1人当たり売上高が減少した場合は生産性・収益性の低下を示したことになり売りサインです。

このように、会社四季報オンラインでは、検索機能が充実していることがメリットです。

――会社四季報本誌だけでなく、四季報オンラインの活用も注目ですね。

会社四季報オンラインでは、独自増額の銘柄の業績データを四季報本誌の発売日の2週間前あたりから更新し、速報性もあります。しかし、中長期投資の視点から有望銘柄を発掘するにあたっての四季報本誌の魅力が色あせるわけではありません。

ここまで述べてきたこと以外にも、投資のヒントはまだまだ会社四季報の中に多数あります。投資家の方々それぞれの投資スタンスにあった投資の手掛かりをぜひ発見してみてください。

山本隆行

山本隆行(やまもと・たかゆき)

山本隆行(やまもと・たかゆき)

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒業。東洋経済新報社で「会社四季報」記者として多岐にわたる企業、業界を担当後、「週刊東洋経済」副編集長、証券部編集委員、名古屋支社長を経て2012年「会社四季報」編集長、2013年「会社四季報オンライン」の立ち上げに伴い初代編集長に就任。2019年4月からは編集局会社四季報センターのシニアスタッフ。主な著書に「伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい」(東洋経済新報社)。

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