ESG Stories
2025年3月31日
当社は、2024年3月、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループの戦略的パートナーであるMorgan Stanleyが、
米州およびヨーロッパ・中東・アフリカ地域で展開している「Morgan Stanley Inclusive Ventures Lab※」
を活用したスタートアップ伴走プログラム「Japan Inclusive Ventures Lab」(JIVL)を開始することを公表しました。
女性や多様なバックグラウンドを持つ起業家への支援をミッションとして掲げるJIVLの初年度の伴走支援企業に選定したのが、
食の問題解決のための持続可能な仕組みづくりに取り組む「ASTRA FOOD PLAN株式会社」と、女性ITエンジニア育成を通じて
男女賃金格差の解消に取り組む「Ms.Engineer株式会社」の2社です。社会課題解決をめざす2人の女性起業家の志と
事業内容を紹介するとともに、JIVLの伴走支援がどのように事業の拡大につながっているのかをご紹介します。
※ 現在は「Morgan Stanley Inclusive & Sustainable Ventures」に名称変更しています
ASTRA FOOD PLAN株式会社
代表取締役CEO 加納 千裕
ASTRA FOOD PLANは、2020年に3人でスタートした会社です。最初の1、2年は、いかに栄養価や風味を残しておいしく
食品を粉末化できるかを追求して装置の開発に取り組み、過熱水蒸気技術を用いて食品の乾燥と殺菌ができる
「過熱蒸煎機」という機械を作りました。過熱蒸煎機は、非常に量産性が高く、栄養価を保ちながら低コストで
粉末化できるという特長を持ち、食品残渣(ざんさ)を新たな食品原料にアップサイクルすることができます。
私たちはこの点に着目し、「かくれフードロス」をテーマに事業を展開していこうと考えました。
「フードロス」と言えば、スーパーやコンビニで売れ残ったお弁当やお惣菜など、本来食べられたはずなのに
廃棄されてしまう製品のロスを指しますが、これは年々減ってきています。農水省の推計で、2015年度646万トン
だったものが、2022年度472万トンにまで減っています。ところが、その一方で、規格外の作物や野菜を下処理した
ときの端材など、原料生産、食品製造の工程で出る食品残渣(ざんさ)は減っておらず、年間2,000万トンくらい
あります。この食品残渣が、私たちが取り組んでいる「かくれフードロス」です。
具体的な事例をご紹介しますと、例えば牛丼チェーンの吉野家さんは、タマネギを下処理する過程で出る端材が
年間約250トンに上り、数百万円かけて廃棄していましたが、当社の過熱蒸煎機をレンタルで導入していただき、
端材の全量をタマネギパウダーにアップサイクルさせています。さらに、そのタマネギパウダーを当社が買い取り、
別の食品会社さんに販売する事業も行っています。全国に店舗を持つ人気ベーカリーのポンパドウルさんは、
生地にタマネギパウダーを練り込んだオニオンブレッドを開発し、2023年2月から販売を開始しました。
吉野家の玉ねぎ端材から生まれたタマネギパウダーは、熱風乾燥で作られた市販品のタマネギパウダーと比べ
最大で135倍の香り成分を含む、高品質の食品パウダーになっています。この風味をご家庭でも楽しんでいただけるよう、
「タマネギぐるりこ」と名付け、ECサイトでの販売も始めています。最近ではドイツ伝統製法でハム・ソーセージを作る
「いくとせ」さんがタマネギぐるりこをひき肉に練り込んだソーセージを開発するなど、
今、さまざまな商品が生まれ始めています。
このように、食品残渣を乾燥させて新たな食品原料に加工し、複数の事業者で連携しながら製品化してアップサイクルし、
「かくれフードロス」を最終的にゼロにしていこうというのが、ASTRA FOOD PLANです。
私は、「かくれフードロス」という未利用資源は世界中にあり、日本だけの限られた市場ではなく、
このビジネスを世界に広げていきたいと本気で考えています。その世界への挑戦も視野に入れながら、
メンバーを9人に増やし、チームとしての組織づくりや事業の展望を明確化していこうというタイミング
でJIVLに出会い、伴走企業に選んでいただいたことは、大変ありがたいことだと思っています。
特に、JIVLのプログラムに組み込まれているMorgan Stanley Inclusive Ventures Lab Global Showcase & Demo Dayで、
ロンドンでピッチできる機会をいただけたことは本当に素晴らしいことだと思っています。
モルガン・スタンレーの皆さんにご協力いただきながら英語でのプレゼンテーションの資料をつくりましたが、
イギリスやEU諸国でどのくらいの「かくれフードロス」が出ているのかも調べていただいていて、とても心強かったです。
そうした状況の把握以上に難しいのが、各国の規制など、実際に過熱蒸煎機や食品パウダーを輸出しようとするときに
どういった障壁があるのかを把握、理解することだと考えています。その点、ベースフードの橋本CEOをはじめ、
すでに多くのチャレンジをしていらっしゃるJIVLのメンターの皆さん方からご意見を伺えたことも、素晴らしいと思います。
Ms. Engineer株式会社
代表取締役CEO やまざき ひとみ
Ms. Engineerは、2021年に創業した、女性を対象にITエンジニアの育成を行っている企業です。
AIを活用したプログラムで国の基準で「高度IT人材」に分類される比較的技術力の高いエンジニアを
約半年ほどで育成するプログラムを持っているところが当社の特徴で、すべてオンラインで学習できる
ようになっているため、現在、地方在住の女性の受講割合が7割程度に上っています。
「ジェンダーの力を解放し、歴史を変える」というミッションのもと、私たちは、単純にIT人材を育成するだけではなく、
「事業を通じて女性の賃金をしっかりと上げ、日本の男女賃金格差を解消する」というビジョンの実現に取り組んでいます。
2015年に「女性活躍推進法」が成立して約10年が経ちますが、日本の男女賃金格差の水準はOECD平均の約2倍と言われており、
女性の賃金を上げていくことに関してまだまだ有効な施策が打たれていないと考えているからです。
そうした日本の現状に対し、女性が高いITスキルを身に付けることで賃金が上がりやすくなると考え、事業を立ち上げました。
現在、卒業生の平均年収は484万円で、日本の女性の平均年収より約170万円ほど高い水準となっており、
私たちの取り組みの方向性は正しかったと受け止めています。
男女の賃金格差の解消は、「女性が活躍して女性の権利や社会的地位が向上した」という単純な話にとどまるものではありません。
賃金格差の解消、女性の活躍は、経済全体に対する波及効果が非常に高いのです。内閣府の試算でも、
そのGDP押し上げ効果は約30兆円に上るとされています。
私たちは、そうした大きな視点に立って、女性のITエンジニア育成を推進しています。
例えば、地方在住の女性が地域にとどまったまま、高い賃金を得て働き続けることができるようになる。
なおかつ、彼女たちが日本全国のデジタル化推進を担う人材のインフラになる。その実現を通して、
労働市場構造の変革や日本全体の経済成長に、私たちの事業も貢献できると確信しています。
JIVLの目的・ミッションとMs. Engineerのスピリットは非常に合致する部分が多く、
自然な流れでこのプログラムに応募させていただきました。その後、実際に審査が進行するにつれ、
面談時の質問内容や審査にかける熱量の大きさを通して、JIVLの本気度を強く感じるようになりました。
私たちの事業プランについて、多くの方々が、さまざまな角度から検討を加えていただいたことは
本当にありがたいことだと感じながら、プログラムに参加させていただいています。
私個人としては、JIVLを、起業家としての自分のステージを上げるきっかけにしたいという思いを持っています。
アーリーより少し進んだくらいのスタートアップのステージで、しかも創業者としてやっていると、
本当に日々の業務に忙殺されます。その中で見えなくなっていたものが多くあった、
井の中の蛙になっていたと気付かせてくれたのが、このプログラムでした。これからもう1段階高いところを
めざしていくにあたって、こういう知識が必要になるとか、こうあるべきだといった視点を、
JIVLに関わってくださっている皆さんが投げかけてくださるので、私たちも起業家として
もう一歩上に行く貴重なチャンスになっていると思います
今回のプログラムの一環で、ニューヨークのMorgan Stanley Inclusive Ventures Lab Global Showcase & Demo Dayでの
プレゼンテーションの機会をいただき、外から見たとき日本の課題をメタ認知するとはどういうことなのか
という視点がもらえたことは、非常に有意義なことでした。ジェンダー・ペイ・ギャップはグローバルな課題であり、
Ms. Engineerの価値は何なのかを、世界で、自分の言葉で語ることは、大きな学びになると思っています。
私たちは社会課題の解決を事業とし、経済性と社会性の両立というジレンマを抱えています。
しかし、社会構造そのものをサステナブルなものにしていかなければわれわれ全体が生き残っていけないのであり、
その中で経済性を優先していこうというのは間違っていると考えています。
では、どうやって事業の成長を実現していくのかを考えたとき、やはり、多くの人の共感を得て、味方を増やし、
ムーブメントをつくっていくしかないのだと思います。
今回、JIVLの伴走企業に採択していただき、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に出資を伴って
味方していただけるということは、私たちにとって本当に重要な、意味の大きなことでした。
プログラムは期間が終われば終了しますが、会社は継続していきます。その継続の中で、
私たちも事業トラクションを出していくことで、相互の信頼関係をより強固なものにしていきたいと考えています。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券
チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSuO) 南里 彩子
当社は、2017年にモルガン・スタンレーが米州およびヨーロッパ・中東・アフリカ地域で立ち上げた
「Morgan Stanley Inclusive Ventures Lab」を活用したスタートアップ伴走プログラムJIVLを、2024年度から開始しました。
JIVLは、女性や多様なバックグラウンドを持つ創業者や経営陣によって設立・運営され、社会課題を解決するESG領域での
事業を展開する日本のスタートアップ企業を、伴走・支援していこうというプログラムです。そして、JIVLの初年度の伴走企業として、
ASTRA FOOD PLAN株式会社とMs.Engineer株式会社の2社を採択しました。
JIVLのミッションは、3つあります。一つは、日本国内で閉じているスタートアップがまだ多い中、創業の早い時期から
Born Globalでマーケットを広げていこうということ。二つ目は、多様性を持つ起業家の皆さんの視点を活かし、ESG課題の解決、
経済社会構造の変革を実践していくこと。三つ目が、リターン目標のような従来の判断基準にとらわれず、長期的な視点で投資をし、
起業家の皆さんに伴走しながら日本の持続的な成長に貢献していこうということです。伴走企業に採択された2社には、
当社からの出資や、多様な座学プログラム、モルガン・スタンレーがロンドン、ニューヨークで実施する
Morgan Stanley Inclusive Ventures Lab Global Showcase & Demo Day(MSIVLにおいて採択されたスタートアップのピッチイベント)への参加、
メンターとのセッションといった支援を行ってまいります。
ASTRA FOOD PLAN株式会社
代表取締役CEO 加納 千裕
Ms. Engineer株式会社
代表取締役CEO やまざき ひとみ
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